Cold phantom
ほとんど時間はかかってはいないが、マリアさんの掃除の仕方が雑だったのか、私が掃除を始めて5分も経たない内に散らばっていた桜の花弁が一ヶ所に固まった。

と言っても、また明日になれば散らばってしまうのは目に見えるのだが…

私は向かい側の一軒家の桜の木を見上げてそんな事を思った。

思えば…そう、私がここに越してきた時もこの桜は満開だった。

もうあれから5年になるのかと思うと、何だか感慨深い物だ。

-お願い祥子ちゃん。祥子ちゃんの一人暮らしの為にこの安アパートでも更に家賃を抑えて生活させてるんだし…-

ふとマリアさんの言葉を思い出す。

一人暮らし…そう、私は5年前の中学生で既に一人暮らしを始めていた。

いや、始めざるを得なかったと言うべきか…

記憶の無かった私に何故か一切の身寄りがなく、記憶喪失の原因が解らず終いのまま私はここまで生きてはいるが、その記憶喪失が原因で孤児院は私を引き取れない等と言う不思議な出来事が続き、いつまでも病院にいるのも躊躇われたので一人暮らしを決意した。

国からの援助金を働けない中学生の間は貰って生活し、それを見かねたマリアさんは家賃を破格とも言える金額にまで抑えてくれた物だった。

アルバイトが出来るようになってからはさすがに破格な金額では割が合わないと家賃を引き上げた。

まぁ、それでもまだ少しばかり安くして貰っていて実際には頭が上がらない存在だったりする。

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