Cold phantom
バイトが始まってすぐは、お客さんは誰も入ってこなかった。

ピーク前の静けさと言うのか、私もみーちゃんもとりあえずピーク時の事を考え、前準備をしていた。

私とみーちゃんでは役割分担が異なり、みーちゃんはウェイトレス、私はコーヒーメーカーとカウンター席の応対の担当になっている。(本当に忙しい時は私もみーちゃんの手伝いに回る事もある。)

コーヒーの種類によって使う機械も違って来る。

オールインワンの機械も存在するが、それは主力の機械が使えなくなった時の予備の為に置いてある。

そこら辺はマスターのこだわりのようだ。

繊細な使い方を要求される物もあってか、マスターに「手先が器用」と言うこと(らしい)で私はマスターから使い方を一から教えて貰った。

-美咲と違って丁寧に使ってくれるから助かるよ。コーヒーは祥子ちゃんにお任せかな。-

と言われたのが高校に入って一週間、つまりバイト一週間目の事だった。

そのあとにみーちゃんが…

-ちょっとマスター、なんかものすっごい失礼な事言わなかった?-

と言った後に、マスターはボソッと…

-山盛りカプチーノ-

の一言にみーちゃんは表情を固めると、とどめとばかりに…

-熱いままのコーヒーを更に透明のグラスに入れて割…-

-ギブです。はい。-

みーちゃんはあっけなく引き下がった。

そんな事をふと思い出し、洗浄中のスチーマーが派手にコポコポと音をたてているのを見ながら微笑した。


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