Cold phantom
記憶の一片にあるのは桜並木と学校と親友のみーちゃんくらいか…

何をしていたのかまでは解らないが、何かしらみーちゃんの巻き添えを喰らっていたのはおぼろげながらに覚えている。

洗面台で歯ブラシを握り鏡を見ながら、尚も夢の内容を思い出そうとしていた。

(夢見るのって久し振りだなぁ…)

歯ブラシを終えて洗顔を始めてようやく夢の内容が気になる理由に気が付いた。

おぼろげとは言え、夢を見た事をはっきり自覚したのは久し振りだったからだ。

みーちゃんとのちょっとした一幕、何気ないそんなひとこまに私は何故かちょっと違和感を感じていた。

(夢の中のみーちゃんは私に何してたんだっけ…)

私はお弁当作りでフライパンの上のソーセージを踊らせながら深く思い出そうとする。

何か私の為にと思って強引に手を引っ張ってきたような、そんな感じがある。

みーちゃんの強引さは今に始まった訳じゃない。

それを解っている私には結局弁当が出来上がる時間になってもその違和感がなんなのか解らなかった。

「そろそろかな。」

私は弁当を鞄の中に入れてすぐ玄関のロックを外した。

それからしばらくは髪をとかしながら反応が来るのを待った。

そして案の定、すぐに反応が来た。

玄関のノブが半周回ると同時に、扉が開いた。

「おはよう祥子。春休み気分が残ったままになってるんじゃないかって心配してたけど必要なかったみたいだねぇ。」

「私だってそこまで天然じゃ無いってば、みーちゃんに見くびられてるなぁ。」

そう言って入ってきたみーちゃんは春休みが終わっても元気だった。

鼻の上の桜の花弁にすら気がつかない程に…。
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