Cold phantom
その流れは9時頃になってようやく落ち着き、横長の流し台を埋め尽くしていたカップや皿を洗い終えたのが9時半手前の時間だった。

終業時間の10時までの30分間はコーヒーメーカーの後片付けになりそうな感じだ。

実際、既に洗浄液がメーカー内を洗浄している音を聞きながらカップを洗っていたので、洗いきった時には洗浄も終わっていた。

後は洗浄液を洗い流し、器具を洗うだけだ。

熱く薬臭いスチームを吹くメーカーを見ながら、私は洗い終わった食器の上に乾いたタオルを乗せて、器具を吹き始めた。

そんな雰囲気の中に、未だお客さんはいた。

「遅いわねぇ…」

そう言って腕時計を確認する沙冬美ちゃんが、相変わらずの席で小さく愚痴を垂れていた。

無論バーベキューの話についての事だ。

「ふーみんの事だから忘れてんじゃないの?」

「そうかしらね…あらっ?」

沙冬美ちゃんは電話するつもりで起動したシックな黒のフィーチャーフォンを見るなり声をあげた。

メールが来たのか、ブルーライトの軽い光源に視線を向けて、瞳が横に流れる一定の動きを繰り返していた。

「もしかしたら美咲達にもメール届いてないかしら?湯川君からメールが届いていたわ。」

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