不滅の妖怪を御存じ?
「あっちに戻らないの?」
藍の言葉に、その場は水を打ったように静かになった。
不自然に空中に手を伸ばしている藍。
その手は、何かを掴んでいるような形だった。
「佳那子、鏡。」
「分かってる。」
桜は小声で佳那子を呼びかける。
気が付けば千秋も札とチョークを取り出していた。
そんな周囲の不穏な空気には気付いていないのか、藍はキョトンとした顔で何もない空中を見つめている。
「桜、伊勢くん。」
押し殺したような佳那子の声。
「いる。」
桜と千秋は身を寄せ佳那子が持つ鏡を横から覗いた。
そこには藍に手を掴まれた少年の妖怪がいた。
ヒレのような耳の形から考えて海の怪だろう。
桜はゴクリと唾を飲みこむ。
「なんでって、君、新種の河童でしょ?」
違うわ。
間抜けな藍の声に桜は思わず心の中で突っ込む。
すると、少年の妖怪も怒りに震え大声を出したようだ。
コンマ数秒で藍が右ストレートをくりだし少年の顔を吹っ飛ばす。
「縛!」
千秋の鋭い声が飛ぶ。
彼が放ったお札は一直線に少年の妖怪のおでこにくっついた。
相変わらず速い。
桜は感心し口笛をふいた。