不滅の妖怪を御存じ?
「妖怪は自分たちが人間には見えないことをいいことに、朝廷軍を困らせました。そして、妖怪が見える一族の者には一人だけ、鬼道に優れた者がおり、九木が妖怪に手を出せないように強固な結界を張ったのでありますのです。」
紫月の話の際中に「ねぇ」と佳那子が声をかけ中断された。
「それが禁書庫にある理由がいまいち分からないんだけど。」
フワリとポニーテールを揺らし佳那子はそう尋ねる。
紫月は口を真一文字に結んだまましばらく黙っていた。
三分ほど経った後だろうか。
ポツリと紫月が零した。
「私にも分からないのです。」
「……はぁ?」
間抜けな声を出したのは桜だけではなかった。
六十過ぎのお偉いさん方までポカンとした顔で紫月を見つめていた。
「鬼道に優れた東北の一族の者というのは、アテルイのことでありますようです。彼は歴史では蝦夷の族長として伝えられ、802年に坂上田村麻呂に降伏し、河内国に連れて行かれ、斬殺されたことになっています。」
「それ、紫月のとこの文書では違うことになってるのか?」
桜の問いに紫月は静かに頷いた。
「アテルイは、何かを確かめたいがためにわざと捕まり、西へ行ったと伝えられています。」
わざと?
捕まったら殺されるというのに、わざと捕まる人がいるのだろうか。
桜が眉をしかめれば紫月は困ったように口を歪めた。