不滅の妖怪を御存じ?
「河内国へ行く途中、アテルイはずっと私たちには見えない妖怪と話続けていたようです。斬殺される瞬間まで、天を見上げて。私の祖先が聞き取った会話は全て記録していたようでありますが、今は始めの一言二言の記録しか残っておりませぬ。」
当時の記録者の日記が38段の棚にありました、と紫月は言う。
「アテルイが斬殺された瞬間、彼の言葉を記した部分からビリリと文書が破け、ふわりと宙に浮くと、そのまま飛んでいってしまったそうであります。」
ゴクリと。
紫月の話を聞いていた全員が唾をのんだように桜には思えた。
そんな都合良く文書が破れるわけがない。
あまつさえ、風に飛ばされてどこかに行ってしまったなど。
奪われたのだ。
おそらく、アテルイが最後の時まで話していた妖怪に。
空を飛べる妖怪。
桜の頭には様々な妖怪の姿が浮かんでくる。
『私の親代わりの人』
『弓月です。』
『天狗だったみたいです。私も最近知ったんですけど。』
ふいに、有田藍が鬼道学園にやってきた当日の彼女の言葉を思い出した。
桜は頭から胸、腰、つま先へとスーッと冷たいものが流れていったように感じた。