不滅の妖怪を御存じ?
弓月
「空にある星を一つ欲しいと思いませんか?」
坂口安吾のピエロ伝道者はその一文から始まった。
排ガスと街の灯りに邪魔をされて今では夜空に星などほとんど見ることができない。
あるのはチカチカと瞬く飛行機の灯りだけだ。
それでも、星がない夜空に向かって星を掴もうと竹竿を振り回す男がいた。
空を仰ぎ見、高い鼻をさらに高く突き出している。
「よく飽きないね。」
「飽きるはずがなかろう。」
この男はもう何年もこうして夜空にむかって竹竿を振り回し続けている。
藍が生まれる前からやっていたというのだから、もう十六年以上もやっているのか。
腕の筋力以外何も生み出さないような行為をよく続けたものだ。
そんな、馬鹿らしい行動を何年も続けている男が、藍の親代わりなのだ。
屋根の上で竹竿を振り回し続ける姿を見上げる。
彼は弓月という。
名字は知らない。
藍とは血はつながっていないはずだ。
何故なら彼は異様なほど鼻が高いから。
そこだけ西洋の血が流れているのかと疑うほどに。
対する藍は潰れた鼻だ。
きっと血はつながっていない。
それでも物心つく前にいなくなった両親の代わりに弓月はずっと藍のことを育ててくれた。