不滅の妖怪を御存じ?




だんしといれ。

まさか。

まさか、この子。


思い出したのは一ヶ月以上も前のある光景。

まだ岩手にいて、学校帰りに竹内蛍に連れてこられた山。
前日の嵐で荒れていた。
お手洗いの看板。
藍が踏んだ木の札。

二つの目。
ガリガリに痩せこけた、男の子。

幽霊じゃなかった。
彼は、妖怪だったのだ。

サァッと藍の顔から血の気が引く。


『……男子トイレ?』


言った。
確かに藍はあの時小屋の中にうずくまっていた少年にそう言った。

だがそれはあの場を切り抜けるためだけに口にした言葉だ。
決して名前をつけたわけではない。

そもそも男子トイレなんて酷い名前をつけるわけがない。
だから、えっと。

何か言わなきゃいけないことは分かっていたが藍は口をパクパクさせるだけだった。
話を上手くまとめられない。
乙姫様たちの視線が怖い。

男子トイレ少年の「やっと会えたねご主人様」と言いたげな視線にものすごい罪悪感を感じる。

ごめんね、君に男子トイレなんて酷い名前をつけたのはわざとじゃないんだ。




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