不滅の妖怪を御存じ?



乙姫が男子トイレを警戒しながら牢に近づいてくると、有明が鉄格子に近づいた。


「俺も出てくから。」

「……二度と戻ってこないで。」


母親とは思えない言葉を吐き捨てた乙姫に有明はべ、と舌を出す。
カチャリ、と鍵が開く音がする。
牢を出ると有明は兄弟たちに目もくれずにずんずん歩いていく。
藍も慌てて男子トイレを抱きかかえ有明の後を追う。

岩だらけの廊下を過ぎ、芸術品が飾られている廊下に出た。
初めてここを通ったときはあちこちで宴会をしていて賑やかだったのを思い出す。
だが、今は人っ子一人いない静寂だ。

ペタペタと、藍のスニーカーと有明の裸足で歩く音がやけに耳につく。


「静かすぎない?」

「皆お前が抱っこしてる男子トイレを警戒してんだろ。」


あ、そうか、と藍は視線を左下に向ける。
藍の首と肩に手を回している男子トイレ。

クリクリの黒目にあどけない顔。
腕にずしりとかかる重さは子供のそれだ。

こんなただの小学生にしか見えない子なのに妖怪たちに恐れられているなんて。





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