不滅の妖怪を御存じ?
どうすればいいか分からず藍が黙っていたら。
ビュウッと、にわかに冷たい風が吹いた。
一瞬で空気が冷える。
流れる不穏な空気。
誰かに名前を呼ばれた気がして、藍は後ろを振り返った。
「弓月?」
暗闇の中に、ぼうっと光る人影。
高い鼻。
少しつりあがった目。
藍の見間違いでなければ、あれは弓月のはずだ。
なんでここに弓月が?
「狐に化かされてんぞ。」
有明に震える声でそう言われた。
チラリと視線を有明にやると、彼は青白い顔をしていた。
「あれは九木だ。」
九木。
呟いた声は声にならなかった。
九尾の狐。
ついに姿を現した。
暗闇に立つ弓月の姿をした九木を見つめる。
今ここには蛍や鬼道学園の人たちがいる。
だが、全員で力を合わせたって九木には勝てないだろう。
ゴクリと喉がなる。
どうすれば全員が九木から逃げることができるのか。
張りつめた緊張感の中。
じっと見つめてくる赤い瞳。
弓月の目は琥珀色だったはずだ。
九木。
こめかみを汗が流れる。
周囲の全員、この状況がまずいことには気付いていた。
指先さえ動かすのを躊躇われる空気の中。
突然、その空気を壊す猛者が現れた。
「本っ当にごめんなさい!」
突然。
石上桜がそう叫んで、理事長にモンゴリアンチョップをかましたのだ。
がっと悲鳴のような声を上げて理事長は膝から崩れ落ちた。
いきなりのことに、九木の不穏なオーラから皆の視線が一気に石上桜に集中する。
「え、石上くんどうしたんだろ。」
「ご乱心ってやつか?」
呆然とした藍と有明。
息つく間もなくブルルルルッと後ろから唸るようなエンジン音。
バキバキバキッと勢いよく木々が踏み潰される。
ゴオッと、藍たちの横を猪のように通り過ぎてゆく車。
ものすごい速さと質量で。
その車は、真っ直ぐ九木の元へ突進していっていた。