不滅の妖怪を御存じ?
「父さんは東北の妖怪のことで頭がいっぱいだったみたいで気付いてなかったけど、今九木が有田藍の方へ向かってる。」
「へ?」
「おそらく東北の妖怪が目当てなんだろうね。」
千秋以外の三人は目を合わせる。
九木の妖力なんてここ数分感じなかったのに。
三人の考えがわかったのか、千秋はハッと鼻で息を漏らした。
「何のために九木が木々で街を覆おうとしてるのか分からないの?妖力を分散させて僕たちに居場所を教えないためだよ。」
じゃあ千秋はその小さな無数の九木の妖力の欠片から本体だけを取り出して感じ取れるのか。
なんだそれ。
「千秋ってすごいな。」
「誰に向かって言ってるの。」
「その態度もすげえよ。」
バキバキバキッと車が木々を踏みつける音がした。
「妖怪を殺せるのは桜だけだから、父さんはきっと桜を一番始めに出すよ。桜が行ったら僕と佳那子と紫月はこの車の運転手を襲う。」
「え、なんで。」
「この車を奪うためさ。で、桜は東北の妖怪を殺さないで九木が出てくるまで待ってほしい。」
「九木が出てきたら?」
「僕の父さんを気絶させて。」
「………は?」
ポカンと、千秋以外の三人は呆然としていた。
「有田藍を逃がすためには父さんはちょっと邪魔なんだよね。」
「いや、お前、実の親になんてことを。」
「父さん最近肩こりひどいらしいからモンゴリアンチョップでもかませばいいんじゃない?」
「容赦ないな。」
キキッと車が止まる。
どうやら着いたようだ。
そうして千秋の読み通り桜が呼ばれた。
車から出て理事長の半歩後ろに立つ。
数メートル先で、有田藍が立っていた。
彼女の右手は誰かと手を繋いでるかのようだった。
その隣では竹内蛍であろう人物が何が何だか分からないような顔をしている。
「桜。」
いつの間にか千秋が後ろにやってきていた。
「桜が父さんをやったら、僕たちは車で九木に突っ込む。」
「殺せそうか?」
「無理だね。怪我くらいはさせるつもりだけど。」
よし、と桜は前を向く。
拙い計画だけど仕方ない。
今は信じて進むしかない。
フッと周囲の空気が変わった。
有田藍がバッと後ろを振り返る。
天狗の姿が見えた。
狐は化ければ人にも見えるようになる。
桜はふー、と一息つくと、理事長の肩めがけて両腕を振り上げた。