不滅の妖怪を御存じ?
乙姫









次の日。
朝日の光で周囲がほんのりと姿を見せた頃、有明に起こされ静かに砂浜を去った。

朝といってもまだ小鳥のさえずりも聞こえない時間帯で、あたりはそこそこに冷たい。


「今何時?」

「四時くらいじゃね」

「早い……」


くぁ、と欠伸が出る。

目をゴシゴシ擦りながら、藍は有明の後をついて歩く。
ちなみに、藍の背中にはダンがおぶわれスヤスヤと寝ている。
さすがにこんな小さい子を早朝に起こして歩かせるのは酷だと思った。


「有明、これどこに向かってるの?」

「天狗の妖力が感じられる方に向かってる。九木が寝てるんだか知んねーけど、木が動いていない今のうちに移動しちまうぞ」


有明の言う通り、昨夜人間たちを騒がせた動く木々は、今日はピクリとも動かず静かだ。
ただ、昨日の異常成長した木々は道路を覆ったままなので町は一見するとジャングルだ。

メリッ、ボキッ、と木々を踏み折りながら進む。

あ、そういえば、と藍はあることに気づく。


「弓月の手紙、読みたいんだけど」

「それもそうだな。読んじまうか」


葉っぱがこんもりと茂っている場所にダンを降ろし、藍と有明も腰を下ろす。

モゾモゾとダンが動き欠伸をした。
起きたようだ。

ポケットから手紙を取り出す。
かなりの量の紙の束だ。
弓月はこんなにたくさん何を書いたのだろうか。

不思議に思いながら開けてみて、拍子抜けした。


『九木の動きが活発になった。天狗ではもうあやつを抑えられぬ。牛木を頼るしかない。藍、お前に牛木である壱与の封印を解いてほしい。牛木は京都の竹内家に封印されている。あとはよろしく頼むぞ。弓月』


これだけだった。
紙の二十分の一くらいしか使ってない。
残りの使ってない部分は無駄じゃないか、と藍は思った。




< 349 / 491 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop