不滅の妖怪を御存じ?
「実際、確証がなかろうが何だろうが、九木を殺そうと本気で考えたら、牛木の封印を解く以外に打つ手はないんだよな」
どこか諦めたような声で有明が漏らす。
「天狗は、もう千年以上も生きてるんだ。年をとればとるほど嘘をつくのが上手くなる。まして、あいつから見れば俺もお前も赤子同然だ。赤子を騙すのなんざ簡単だろ」
どこか痛そうな声を藍は黙って聞いていた。
「お前は人間側にいるべきだ。天狗を信用すんな。あれは妖怪で、人間を憎んでいる。お前は、天狗の一族が生き残るために利用されているだけだ」
そう言い捨てると、ふいと有明は踵を返す。
ジワジワと、朝の光が肌に当たる。
弱いが、照りつけるような光に今日も暑くなりそうだと藍はなんとはなしに思った。
「俺は抜ける」
有明はそう呟くとシトシトと歩き始めた。
ゆっくりと離れていく背中。
お前は人間側にいるべきだと言った有明。
その言葉を頭の中で反芻する。
有明は、天狗に対して怒っていたのか。
それとも、藍に対してか。
彼の言葉は本心にも思えるし、そうでもないような気もする。
なす術なく立ち尽くす藍の手をダンがぎゅっと握ってくる。
天狗を信用すんな。
再び頭に響く有明の声。
天狗を、弓月を信用するな、と。
藍は利用されているだけだと言われた。
弓月にとって、利用価値があるから、それだけで藍は育てられたのだろうか。
じっと考えていた時。
ゴォォッと、上から下へ押しつぶすような風。
バサリと、何かが降ってきた。