不滅の妖怪を御存じ?
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朝焼けと共に、海の怪が少女の元から離れていくのが見えた。
立ち尽くす少女のそばには、童がいる。
しかし、姿は小なれどその妖力はじっとりと、周囲を喰らうかのような気味の悪さだ。
雲の切れ間からその様子を見ていた阿知は目を細める。
知らず噛んでいたのかギリッと歯がなる。
『藍を壱与の元まで連れて行ってくれ』
数時間前、弓月にそう指示を出された阿知。
あれは好かぬ、と渋い顔をすれば今しかないのだと返された。
確かに、九木を殺すとなれば今しかないだろう。
九木が有田藍との接触の後の暴走。
なんとか天狗で九木を押さえつけ、天狗は九木に服従すると約束し、落ち着かせた。
こうして妖怪で九木と対立する勢力はいなくなった。
そう、九木は思い込んでいる。
わずかだが、隙はある。
そこを突くなら今だ。
フッと翼を広げ、阿知は目的の人物のところまで降下した。
「……弓月?」
上からの風で天狗が来ると分かったのか少女は上を向く。
やってきたのが見知らぬ天狗であると分かるとキョトンとした顔をした。
「お前を壱与の元まで連れて行く」
一切の説明を省きそう言った阿知をじっと見つめてくる静かな目。