不滅の妖怪を御存じ?










「遅い」


開口一番にそう言われ、藍はグッタリしてしまった。

ツンと澄ました表情の伊勢千秋。
見下してくる冷ややかな瞳にやっぱりコイツは嫌いだと思った。

先ほど、やけに愛想がない天狗に攫われるような形で竹内家まで連れてこられた。
上空は空気が冷たく、身体に当たる風は痛かった。
叫ばなかっただけ上出来だろう。

はぁ、と藍は思わずため息をつく。


『お前は壱与の封印を解け。それ以外は何もするな』


竹内家の敷地近くに降り立つと同時に強い口調でそう言われた。
命令口調が腹立つなとは思ったが藍は黙っていた。

目の前の天狗も太った河童と同類だろう。
人間が嫌いなのだ。
その上、話が出来ない。

同じ人間嫌いの妖怪であっても話ができる弓月や有明と一緒にいられた藍は幸せだったのだ。


「ほら、さっさと立ちなよ。正門まであと何キロあると思ってるの」

「何キロもあるのか……」

「三十分も歩けば着くよ」


ニコリとも笑わず千秋は藍を置いてスタスタと行ってしまう。

藍が彼に再会したのはつい先程。
天狗に降ろされた場所からよく分からないまま少し歩くと伊勢千秋が待っていたのだ。
キレイに整備された道の中心に。
偉そうに立っていた。
脇にそびえ立つ松の木がやけにしっくりきていた。
和服だからか。

早足で千秋の後をついていく。




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