不滅の妖怪を御存じ?
「妖怪ですね。竜宮乙姫」
「乙姫様?」
藍の頭に煌びやかで凛とした顔が思い浮かべられる。
殺されそうになった過去が懐かしい。
それから、茶色いフワフワの髪の男の子のことも思い出された。
有明は上手く九木から逃げられたのだろうか。
「よく分かったね」
千秋が目をパチクリさせて天音に言った。
「私が知っている限りで人間が未来に行った話、かつ妖怪でありそうな者の話といったら竜宮伝説の乙姫のことだけだったので」
天音は抑揚もなく言った。
千秋は気を取り直すように話し始めた。
「西文の記録にあったんだ。浦島太郎と乙姫の記述が。君があの弱い海の怪と一緒にいた時があっただろう。あいつの妖力が変だったんだ。竜宮一族の血は感じるのに、純粋な竜宮一族とは思えないほどに妖力が弱い。それでいて、すごく濁った妖力をしていたんだ」
妖力は小さいから害はない。
だけど、あの妖怪はどういう存在なのか。
気になったから、紫月に頼み竜宮一族についての記録を見せてもらったのだと千秋は言う。
濁った妖力。
そういえば、有明は乙姫様と西洋のエルフの間の子だったな、と藍は思い出す。
それが関係しているのだろうか。