不滅の妖怪を御存じ?
「西文の記録の竜宮伝説は俗説とはだいぶ異なっていた。日本書紀や万葉集にも浦島太郎の元らしき話は載っている。だけど、話の本筋が全然違うんだ」
「本筋?」
「浦島太郎は亀を殺したんだよ」
「殺した?」
藍の声が上ずる。
亀を助けたお礼に竜宮城に招待される。
藍が知る浦島太郎の話とは始まりから違いすぎる。
「怒った乙姫は、浦島太郎を吹き飛ばしたんだ」
「どこに?」
「三百年先に」
突然目の前の風景が変わる。
見知らぬ家、見知らぬ人たち。
驚いた浦島は、誰彼構わず周りに助けを求めた。
ここはどこだ?
俺の家族は?とわめいたそうだ。
「そこに、乙姫の使いが現れたんだ。彼女が人間にちょっかいをかけたのは後にも先にも浦島太郎の件だけだ」
乙姫の使いは亀だった。
亀は口の閉じられた二枚貝をくわえ、陸に上がってきた。
竜宮城の乙姫様からの贈り物です、と。
そう口添えて、小さなキラキラと輝く貝を浦島太郎に渡した。