不滅の妖怪を御存じ?
よっこいしょ、と口には出さずに起き上がる。
それから、数歩ほど先の茂みに落ちているものが目にはいる。
「やってくれるか?」
男の問いかけを敢えて無視した。
有明はゆっくりと、茂みに埋もれていた桐の箱を持ち上げる。
箱に損傷はそこまでなかった。
けれど、先ほどの九木と壱与の戦いで吹き飛ばされたのだ。
中の楢柴はかなり破損しているだろう。
物が壊れるのは一瞬た。
有明は直し方を知らない。
「俺、妖怪だから」
ぼそりと、そう呟いていた。
この男には有明の声は聞こえないのを分かっていたのに。
「悪いけど、俺死にたくない。天狗でもどうにもできなかったんだ。今更、藍や俺が何したって無理だろ」
そう、天狗にだって無理だったのだ。
九木に対抗しうる最大勢力と言われた天狗でさえ、あっけなく散った。
弓月が、四百年以上もアテルイ一族のために隠し守っていた楢柴だって、一瞬で壊れてしまった。
あっけなく、簡単に。