不滅の妖怪を御存じ?
伊勢家の男は有明が動かないのを鏡でじっと見ている。
それから、不機嫌そうに声を出す。
「僕人間だから妖怪が何言ってるのか分からないんだけど」
この人間は。
有明は恨みがましく男を見る。
この男には分からない。
九木という大きな力に、押し潰されそうになっている小さな妖怪の気持ちなんて。
有明のそんな心持ちなど知らずに、男はすっと立ち上がる。
鏡を地面に置きっ放しにして。
そしてそのまま、ズカズカと有明の方へ歩いてきた。
ギョッとして思わず二歩下がる。
男は有明がいるであろう方向にふらふら視線を彷徨わせた。
そして、めんどくさそうに声を上げた。
「何ウダウダしてんだか知らないけど、九木は君を呼ぶはずだよ。有田藍と時を遡るのに、帰りの方法を考えないほどあれは間抜けじゃないだろう」
有明はグッと息を詰まらせる。
「もっと単純に考えたら?一回くらい、命かけて助けてやってもいいか、そうでないか」