不滅の妖怪を御存じ?
じっと、俯いたまま。
有明は目を瞑る。
ふざけんな。
ふざけんじゃねえぞ。
他人事だと思って。
どっちみち、命かけるのは俺なのに。
そんな単純じゃねえんだよ、と怒鳴りたかった。
抱え込んだ桐の箱がカタカタ音を立てる。
『……その時にならねば分からぬな』
弓月だったら、助けたのだろうか。
助けた、かもしれない。
有明の腕の中の箱が何よりの証拠だ。
腕の中の重さ分くらいは、天狗は藍のことを気にかけていたんだ。
『私の知り合いには生きててほしい』
藍は。
もしも、俺がピンチだったら、藍は。
どうするのだろうか。
知り合いだから。
それだけで、本当に助けに来るのか、あいつ。
『弓月と、有明とダンには生きててほしい』
弓月は死んだ。
ダンはきっと、九木に殺される。
九木は得体の知れない妖怪は早めに消すだろう。
火種になる前に。
有明はがっちりと、桐の箱を抱きしめる。
重さを確認するように。
口元を引き締める。
そして、覚悟を決めた顔で一歩踏み出す。
パキリと、足元で木々が折れた。