不滅の妖怪を御存じ?
「ならば、彼を殺すのは過去での方がよろしいのでは」
まさかの、有明がファインプレーをした。
藍がダンに抱きついた時点で一緒にいたいと解釈してくれたのか。
しかし、有明の提案に九木は眉をひそめる。
「何故だ」
「九木様が過去を確かめ、人間の過ちを証明するでしょう。そして、人間に勝利した記念として、その妖怪を殺す。九木様は牛木として完全になり、すべての生命があなたに従うようになります」
今も。
そして、6550万年前の生き物たちも。
太古の昔から、この地の支配者としてあなたの存在は証明されます。
そう、有明は得意げに言った。
かなり無理矢理こじつけた感があったが、九木は納得したように頷いていた。
どこが彼の心を動かしたのか。
支配者という言葉か。
存在の証明か。
「今から思えば、我ら妖怪は人間に甘すぎたのだ。彼らが生まれてくる前からこの地にいたというのに」
予定変更だ、と九木は呟く。
「人が生まれた時代へ寄らせろ。存在自体、無かったことにしてやる」
地球上に、人間という生き物は生まれなかったことにする。
そういうことだろう。
藍はギュッとダンを抱きしめる。
賭けだ。
有明と、ダンが、私を生かそうとしてくれるか。
「では、皆で行こうか」
ニィッと、九木が笑った。
毛むくじゃらの右の前足が、まばゆく光り始める。
飛ばされる。
思わず目をつぶった。
それでも、しっかり有明とダンに聞こえるように叫んだ。
「ピエロ伝道者!」