不滅の妖怪を御存じ?
蛍のベッドの横の椅子に座る藍。
蛍は差し入れの星座図鑑をご機嫌に眺めている。
「そういやさぁ、俺、知りたいことがあるんだよね」
「何、恐竜絶滅の謎のこと?」
「まぁ、それもある」
ニヤリと蛍は笑った。
「ここ最近のこと、全部だよ。藍が鬼道学園に行ってから、俺が目覚める前までのこと。木が異常成長したり、俺が親父に殺されそうになったこと。全部関係あるんだよな?」
ふむ、と藍は買っておいた三ツ矢サイダーを飲みながら考える。
蛍を殺そうとしたのは九木という妖怪で、九木は人間を憎んでいた。
それから、藍を育てた天狗のこと。
うっかり乙姫様の能力を受け継いでしまった小さな海の怪のこと。
どこから話そうか。
いや、そもそもの話の始まり、ダンのことからか。
妖怪最高峰と言われた牛木のこと。
その特異な能力について。
話したいことはたくさんあった。
どう切り出そうか。
そう思った時、弓月がよく口ずさんでいた一文を思い出した。
屋根の上で竹竿を振り回す弓月。
藍にとっては、あの頃が始まりだった。
だから、今までを語る始まりは、きっとこの句が似合うだろう。
「ねぇ、蛍」
藍の言葉に蛍は星座図鑑を閉じ、顔を向ける。
「不滅の妖怪を御存じ?」
了