不滅の妖怪を御存じ?
「藍さん。」
「っはい!?」
おじさんに声をかけられ藍は慌てて伊勢千秋から目を離した。
笑った後だからか、幾分空気が和らいだ。
伊勢千秋以外。
「では、藍さんは九木の妖力の源だと知らずにスライムを落としたということですか?」
おじさんは嘘みたいな藍の話を一応信じてくれるみたいだ。
というか、半信半疑で質問している。
「はい。」
「妖力の源は、どんな風に管理されていましたか?」
藍は長年見てきた銭湯の風呂を思い出す。
「風呂です。白いお湯の。私はずっと触らせてもらえなくて、私の親代わりの人が管理していました。」
藍がそう言うと、おじさんの顔が奇妙に歪む。
同時に周囲も少しよどめく。
「その、親代わりという人は?」
「弓月です。」
「一応聞きますが、人間ですよね?」
「や、天狗だったみたいです。私も最近知ったんですけど。」
おじさんは急に横を向くと隣の人と小声で話し始めた。
不穏な空気が流れる。
生ぬるい水に、氷をたくさん投げ入れたような変化。
ヒヤリと、藍に刺さる視線が冷たくなった。
一瞬で変わった雰囲気に藍が戸惑っていたら、端ですくっと伊勢千秋が立ち上がった。
「父さん。」
凛としたその声に、藍の正面にいたおじさんが顔を上げる。
この二人は親子だったのか。
そう言われてみると似てる気もする。
二人を見比べていた藍は、次の瞬間、伊勢千秋の言葉に耳を疑った。
「彼女は気が狂ってると思われます。」
藍は静かに伊勢千秋の方を向き中指を立てた。