不滅の妖怪を御存じ?
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藍と伊勢千秋が静かに火花を散らしていることに気づいた伊勢千秋の父は慌てたように声を出した。
「千秋、そんなことを言ってはいけない。」
「でも、そうでしょう。自分が妖怪に育てられたなんて言う女は正気ではないと思います。」
はぁ?と藍が目線をやれば伊勢千秋が冷たく見下げてきた。
「彼女を学園まで連れてくる途中何度か話しましたが言ってることはわけが分かりませんでしたよ。」
「普通に話してたじゃん。」
「そんなのどうしようもないから話を合わせたに決まってるでしょう。」
初めて会ったときから伊勢千秋は良いやつではないと思っていた。
それでも風呂場で妖怪に囲まれたときに助けてくれたのだから、と一応は信頼していたのに。
伊勢千秋は全く藍のことを信じていなかったのか。
脱力感。
「有田藍さん。」
「はい。」
呼びかけに応じて顔を向ければ、伊勢千秋の父は真っ直ぐに藍を見つめてきていた。
「残念ながら我々はあなたの話を信じることが出来ません。」
「え。」
なんで、という顔をすると伊勢千秋の父は困ったように微笑んだ。
千秋だけでなく千秋の父親にまで信じてもらえないとは。
藍の胸にずんぐりとした不安が生まれる。
少し口をつぐみ、迷うようにゆっくり、千秋の父親は口を開いた。
「人間は、妖怪を見ることができないのです。」
じゃあ、弓月は妖怪じゃなくて幽霊だったのか。
目を見開いて藍がまず始めに思ったことはそれだった。
そんな藍を、「絶対変な方向に考えてるな」と伊勢千秋は見つめていた。