不滅の妖怪を御存じ?
「その一族についてほかに何かないのか?」
さらなる伊勢千秋の言葉に紫月は少し表情を曇らせた。
「……アテルイでございます。」
「は?」
アテルイ。
阿弖流為。
日本史がそこまで得意ではない藍でもその人物は聞いたことがあった。
蝦夷の族長。
つまり東北の長。
朝廷と戦い、一度は朝廷を破るものの最終的に負け、殺されてしまう。
教科書には髭がもっさりした男の顔が挿絵としてあった気がする。
「アテルイが、その一族の血を引いていたと記録されております。」
千秋はそこで難しい顔になる。
佳那子など紫月の話を聞いていた人たちは皆、何やら不安そうな顔をしている。
藍は居心地が悪くなり佳那子に目を向ける。
佳那子は困ったように笑いかけてきた。
「根拠のない噂。どうする?」
油断していたときに無茶ぶりしてくる伊勢千秋。
突然のその問いに藍は顔を引きつらせる。
どうするもなにも、藍はなにも知らない。
「私、自分の家の家系とか知らない。」
藍がそう言えば千秋はため息をついて投げやりにこう言った。
「とりあえず、保留で。」