【短編】唇を近づけて
同情だとしても、もういいよ。
その優しさが、臆病なあたしを何度も救ってくれた。
「…青木?」
あたしは、何も言わずに近藤くんの目の前に立った。
椅子に座っている近藤くんは、不思議そうにあたしを見上げる。
叶わないことくらい、分かってる。
最初で最後の悪あがき。
近藤くんの言う通り、何かが変わるのだとしたら。
あたしは、近藤くんの顔を両手で包み込むと同時に、唇を近づけた。
【完】