【短編】唇を近づけて
「今さら?」
近藤くんは、あたしがパシられていても「大丈夫?」だとか「やめろよ」なんて言わない。
わざとらしく、あたしを救おうとなんかしてきたことない。
ただ、あたしがゴミ捨てを押し付けられたときは、放課後にはもう空っぽのゴミ箱が教室の隅に置いてあったし。
クラスの男子の財布がなくなってあたしのせいにされそうになったときは、「その時間は俺といた」なんて適当にも程があるようなことを言い出すし。
優しい言葉なんかくれたりしないけど、近藤くんはいつだって誰よりも優しかった。
「今さら、だよね」