anjel
3時15分。
「お待たせ〜!」
「「「瑞希!」」」
「みっくん!」
ようやくみっくんが来た。
「おせーよ!」
「バイト?」
「…喉渇いた」
「ごめんごめん!バイトじゃなくて、課題の方が忙しくてさ」
私はみんなにペットボトルを配りながら
みっくんの話を聞く。
やっぱり課題大変なんだ…
「お疲れ様です」
と言ってみっくんにペットボトルを渡すと、
「幸望ちゃんもお疲れ様」
優しい笑顔を見せてくれる。
「じゃあ、瑞希来たし"orange"の練習でもするか!」
亮くんの合図にみんなが楽器の前に立つ。
私も真ん中にあるマイクの前に立った。
ふーっと息をはいて、ゆっくり吸う。
目を閉じて、想像する。
ここは、夜の駅前。
仕事帰りのサラリーマン。
学校帰りの学生。
いろんな人が行き交う。
そんな道の端に立つ私たち。
一人でも、多くの人に聞いてもらえるように。
『〜♪』
一人でも、多くの人の心に届くように。
Aメロ、Bメロと続き、サビはみっくんのハモりが入る。
サビが終わると、次は奏ちゃんとのCメロ。
ラストのサビはみっくんと翔。
『〜♪』
曲が終わり、私は後ろを向く。
すると、胸のあたりに拳を当てて、苦しそうにしているみっくんが見える。
「みっくん!?」
慌てて駆け寄ると、みっくんは「大丈夫大丈夫」と笑った。
「久しぶりにギター鳴らしたから疲れたわ」
「大丈夫か?瑞希」
奏ちゃんがタオルと水をみっくんに渡す。
「…顔色悪いぞ?」
休んだらどうだ?と翔。
「瑞希、今日はここまでにして、帰った方がいいよ」
今荷物持って来てやるから、と亮くん。
「…ごめんな、みんな」
本当に、苦しそう。
「みっくん、どこか悪いんですか?」
と聞くと、そんなことないよ、と返ってくる。
「疲れただけだから、大丈夫だよ。ゆっくり寝て明日に備えるよ」
「…そうしろ、瑞希」
そうして先輩は翔にバイクで送られて帰って行った。
「…大丈夫ですかね、みっくん」
残った2人にそう言うと。
「…心配ないよ、きっと」
と、亮くんが少し寂しそうな笑顔で言った。