anjel
ジャスト7時。
私たちの路上ライブが始まった。
「こんばんわ!anjelです!よろしければ一曲聞いて行って下さい!」
亮くんがそう言うと、"You Know"の曲が鳴り始めた。
私は大きく息を吸い、歌い出す。
『〜♪』
道行く人たちは、みんな忙しそうで、
誰一人足を止める人はいない。
みんなチラッとこっちを見ては、
そのまま通り過ぎて行く。
分かっていたことなのに、胸が痛くなる。
『〜♪』
"You Know"が終わり、次の曲へ行く。
…その前に。
「幸望りん!」
亮くんに呼ばれ、ドラムのある方へと行く。
「…誰も立ち止まってくれないからって、落ち込まないでね?幸望りんのせいじゃないんだから」
「亮くん…」
「いつものように、笑顔で!ね?」
「…はい!」
大きく頷いて、マイクの元に戻る。
そうだ。
いつも通り、笑顔で。
立ち止まってくれないなら、
立ち止まらせるように歌えばいいんだ。
「では、次の曲行きます!」
私が明るい声でそう言うと、
いま流行りの曲が流れ始めた。
『〜♪』
笑って歌う。
遠くの人に、届くように。
すると、ちらほら立ち止まる人が出てきた。
私が手拍子をすると、マネして手拍子してくれる。
それだけで、すごく嬉しくなった。