anjel
『〜♪』
流行りの曲が終わり、少し大きくなった拍手が聞こえてくる。
そして、
「いいぞー!」
「上手〜!」
と言う歓声も聞こえてきた。
こんな間近に聞いてくれる人がいて、
「上手」って言ってもらえるなんて。
嬉しくて、涙腺が緩みそう。
「次の曲は、ボーカルが作詞作曲した曲です!」
「ぜひ聞いて下さい!!」
奏ちゃん、みっくんがそう言うと、
またまた拍手が響く。
さっきとは打って変わった切ないメロディが流れる。
私は目を閉じて、麻衣ちゃんの話を思い出した。
夕暮れの、学校。
オレンジ色の光が照らす、甘酸っぱい思い出。
そして"orange"を歌い出した。
『〜♪』
ここにいる人たちは、みるからに大人だけ。
学生の恋心を歌った曲、共感してもらえる?
…共感、じゃなくて、思い出して欲しい。
学生時代の、甘く切ない思い出を。
『〜♪』
歌い終わって目を開けると、
「ヒューヒュー!」
「感動したー!」
「泣きそうだよ〜」
さっきよりも、明らかに増えた人。
10人…、いや、20人以上いる。
「なんだか高校生に戻った気分だね」
先頭で聞いてくれている女子大生2人が、
涙をうかべながらそんな話をしている。
…よかった。
私の歌が、みんなに届いた。
「それじゃあ次は笑顔になれる歌、行きます!!」
亮くんの合図で"Smile Song"が鳴り始める。
それから2曲ほど演奏して、私たちの路上ライブは終わった。