anjel








玄関で立ち上がれず泣いていると。


「何泣いてんだよ」


久しぶりに聞く、ちょっぴり怒った声。


顔を上げると、少し痩せた彼が眉間にシワを寄せて私を見ていた。


「とりあえず、靴脱げば?」


「…うん」


翔輝に促され、履いたままのパンプスを脱ぐ。


…私、この靴でよくここまで走って来たな。


なんて、関係のないことを思う。


「…ほら」


手を出される。


…掴んだ方が、いいの?


でも、もう、彼氏と彼女じゃないし…


「…ったく」


いつまでも動かない私にイラついてか、


強引に私の腕を掴んで立たせる。


「部屋行くぞ」


翔輝はそう言って、私を連れて自分の部屋に入る。


久しぶりに入る翔輝の部屋。


あの話をした以来かな…


「座れば?」


「あ、りがと…」


とりあえずベッドに座ると、


翔輝が呆れたような顔をする。


「わかってねー。」なんて一人で言ってるけど、


私の頭にはとどまらずに抜けて行く。


「…どうした?今日、バンドの練習だろ?」


キャスター付きのクルクル回るイスに座った翔輝が、優しい声を出す。


それだけで、また涙が出て来た。


「うぅ…」


「あーもう、泣いてたらわかんねーだろ?」


足で蹴りながらイスを動かし、私の元までくる翔輝。


「だ、だって…」


涙止まらないんだもん、って言おうとしたけど。


「へ……?」


いつの間にか翔輝の腕の中に閉じ込められ、言えなかった。


「しょ、翔輝…!?」


びっくりして、涙が引っ込んでしまった。


ちょっと待って…?


私たち、別れたよね?


なのに、こんなことって……!!







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