anjel
「幸望りん、焦っちゃダメだよ?」
病院からの帰り道、亮くんが私にそう言う。
「焦れば焦るほど、出てこないから!」
「…はい」
「なんとかなるよ♪」
ニカっと笑う亮くんの笑顔を見ていると、本当になんとかなるような気がする。
「ありがとうございます!」
家に着き、自分の部屋に入る。
ベッドに寝転んで、歌詞が書いてある紙を眺める。
もうすぐで、出てきそうな感じはしてるのに……
なにか、あと一歩が足りない。
「うーん……」
ゴロゴロしながら唸る。
"orange"の時は、コップから水が溢れるようにメロディーが出てきたのに。
…難しく考えすぎなのかな?
もっと、純粋に……
この歌詞の通り、みっくんのことを思って、考えて、思い出して……
「〜♪」
ワンフレーズだけ、溢れてきた。
ほら、あと、もう少し……
『コンコン』
「幸望ちゃんごはーん!」
……知恵ちゃん。
「はーい」
あと少しでもうワンフレーズ溢れてくると思ったのに…
なんて思ったけど、亮くんの言葉を思い出す。
"幸望りん、焦っちゃダメだよ?"
"焦れば焦るほど、出てこないから!"
…そうだよね。
私はふっと笑って、部屋を出た。