anjel
彼女は、なんて答えるんだろう。
『私たち"anjel"は、実はデビューしていないんです』
幸望りんの言葉に、騒つく会場。
『私を含む5人のメンバーで、メジャーデビューを目指して頑張っていました』
いつになっても忘れられない、
あのライブハウスでの練習の日々。
『でもある日、メンバーの一人が、遠いところへ行ってしまったんです。』
5年前の、あの日。
瑞希がアメリカに出発した日。
あの日から俺らのバンド"anjel"は、
活動をしなくなった。
誰か一人でも欠けたら、俺らのバンドは成立しないからだ。
だけど、ただ一人。
俺らが叶えられそうにない夢を、叶えるためと言った、幸望りんを、除いて……
『なので、彼が帰ってくるまでは、永久に活動休止です』
『いつ帰ってこられるんですか?』
『そうですね…』
5年前なら考えられない、
幸望りんの落ち着いた声。
『5年後かもしれないし、10年後かもしれないし……。私には、分かりません。』
一生、帰ってこないかも。
という幸望りんの心の声が聞こえた気がする。
『でも、私たち"anjel"は、彼の帰りを待っています。ここから、ずっと。』
幸望りんが優しく微笑む。
その顔が、瑞希のあの笑顔と重なる。
「幸望ちゃん…」
「…幸望……」
泣きそうな、2人の声。
俺は、我慢出来ずに涙を流していた。
『すごく大切な方々なんですね』
司会者の言葉に、
『はい!すごくすごく大切です。』
と答える幸望りん。
5年前から……いや、出会った時から何一つ変わらない彼女の笑顔。
そんな彼女を見て、みんなが思わず笑顔になる。
…幸望りん。
君は本当に、名前の由来通りな人だね。