anjel
『それでは、幸望さん。歌の準備をお願いします!』
司会者がそう言うと、
幸望りんは立ち上がってマイクの前に移動する。
「…やっとか」
「歌ってる姿見るの、久しぶりだな」
「うん。幸望りん、綺麗になった」
外面も、もちろんだけど。
それ以上に、内面も。
本当に、強くなったね。幸望りん。
彼女はギターを持って、マイクの前に立った。
真っ直ぐにカメラを見つめているのか、
目があっているような感覚に陥って、
思わず心の中で、「幸望りん久しぶり」なんて言ってしまった。
そんな俺に答えるように、幸望りんは話し出した。
『改めまして、こんばんわ!幸望です。この曲は、私が遠くに行ったメンバーに向けて作りました。』
なあ、瑞希。
テレビ、見てるか?
『その人は、人前で歌うことが苦手になってしまった私を、変えてくれた人でした。』
幸望りん、テレビに出てるんだぞ?
『私はいつも、彼の笑顔と言葉に助けられてきました』
5年の年月をかけて、
俺らが出来なかったデビューすることに
成功したんだぞ?
『だから私はその彼に恩返しがしたく、この曲を作りました』
ちゃんと、聞いてるよな?
…瑞希。