海塔にて
塵ひとつないリノリウムの廊下を、片岡亮は先輩職員の後について歩いた。
「久城については知っているな?」
「はい」
「どこまで知っているかい?自食癖がついてきた事は?」
「……いえ、そこまでは」
久城千(クジョウセン)。
19歳。
長異系ナルコプレシー(仮)患者。
14歳から強盗殺人で47刑務所に服役。
収監直後、ナルコプレシー発症。
85医療刑務所での治療の結果新型の睡眠障害であることが判明、15歳で64医療刑務所に収監。
長異系ナルコプレシーの臨床例は世界で久城のほかに報告はない。
一日の睡眠時間が徐々に長くなり、それに伴って、自己修復能力が低下する。
平たく言えば、傷が治りにくくなる。
久城について、片岡が知っているのはこのくらいだ。