海塔にて



「元々凶暴だったんだが、ここのところ二極化してきてね。妙に大人しいと思ったら、代わりに爪や指先を噛みちぎったりしていたとか、とにかく一秒でも目が離せない。
君も気を付けていてくれ、大事なサンプルだ」


収監者をサンプルというのは、彼が根っからの研究者だからだろう。


ただの看守である亮には、その辺りの感覚はよく分からない。


「でも良かったよ、前の看守はベテランだったけど年いってたからな。久城が暴れだすと大変だった」


君なら大丈夫そうだ、と言って、彼は笑った。


作り物のような白い歯が見えた。


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