海塔にて
ドアの横のボタンを押す。
ブザーが響き、マジックミラーの向こう側で鉄の壁がゆっくりせり出す。
その奥で、久城はぼんやり壁にもたれていた。
完全にその姿が壁に隠されたのを確認して、片岡は中に入った。
鉄壁の前に食事を置いて、部屋から出、ドアをきっちり閉めた後にまたボタンを押す。
鉄壁がじょじょに引いていき、また久城の姿が露になった。
久城との直接的な接触は、看守には許されていない。
食事も、こうやっていったん壁を作ってから部屋に置いていく。
接触が許されるのは、定期検診でやってくる医師たちだけだ。
一度だけ、彼らに訊いたことがある。
ここまで他者との接触がなくて、久城の精神状態は大丈夫なのかと。
彼らは完璧な微笑を浮かべた。