インストール・ハニー
「俺を、呼んだんだよ、君は。助けて、って。悲しいよって……」
ゆっくり、区切りながら話す。
助けてって呼んだ? そんなことした覚えなんかない。ただ、失恋して、悲しくて。寂しくて。ほんとに悲しくて。誰にも言えなくて。あたし、失恋を。寂しい、悲しい……。
「青葉」
「や、ごめんなさ……」
視界がぼやけて、頬が両目が熱いと思ったら、涙だった。なんてこと。泣くなんて。
「我慢しなくて良いんだ。俺は君のために出てきたんだ」
頭を、撫でられた。あたしが泣いたって、この人には関係無いのに。
「いいかい? よく聞くんだよ」
心に滲みていく声。優しいしゃべり方。手の温かさが余計に、無関係だと心を締め上げる。それくらい、あたしは弱っている。分かってる。
「君の悲しみが癒えて、傷が残るだろう。その心の傷を受け入れて、笑顔になっていくのを助けるのが、俺の役目」
涙も、静かに流れてゆく。隣にある温かさに寄りかかりたい……。誰の為の涙なのか。
助けるのが役目なの? なんであたしの前に出てきたの。
「そして前を向いて歩き出すのを、俺は見ている。いつでも繋がってるから」
どうして、そんなに優しいの。
「1人じゃないよ、俺がついてる」
泣きやんだところを見て、撫でる手が止まった。
濡れた目が乾く頃、手を頬に移動させてきた彼は、あたしの顔をのぞき込んで、にこりと笑った。……近い。顔が。
「……!」
力一杯両手でその近い体を押しのけると、あたしは深呼吸をする。なんなのよこの状況は。カーペットに爪を立てた。
「あ、あなたは、名前は?」
「……名前? それは青葉が付けるんだよ」
ああ、そうだっけ。困ったな。困るよ!
「……他では、他の人のところへ行った時もこんな感じなんでしょ? いきなり出てきて、名前つけろって。ハイ分かりましたってなるの?」
あたしは、自分のベッドへ逃げた。この情況ですぐに名付けられる人の方が凄い。まだ、まだ落ち着かない。
「他は無い。これは俺の初仕事だから」
「はつ……しごと」
「そうだよ。青葉が俺の初めてだ」
ば……。心臓止まるかと思ったわ。いやさっき止まらなかったからいま止まるわけが無いか。どうでも良いけどだからなんなのこの人。彼は、1人で赤面してるあたしをよそに、部屋をくるりと見回す。6畳だからね。狭いよ2人で居るには。