インストール・ハニー
「好きなアイドルとか居ない? それから取ってもいいし」

「ヤダ、そんなの。キモイ」

「きも?」

 小首を傾げるその仕草、ちょっとイラっとするくらい可愛い。好きなアイドルが居たとして、そこから名付けるなんてキモイったらありゃしない。


 ふっと、自分の部屋を見回す。机の上に飾った、小さなフレームが目に入る。それは、好きだった人と、唯一の思い出の品。四角い中に閉じ込めた、宮田くんとの思い出。

 それは葉っぱ。宮田くんの体育着にくっついていたのを、取ってあげてお礼を言われたんだ。

「楓……」

 体育着から取って、お礼を言われて、こっそりポケットに入れて持って帰ってきた。
 枯れちゃって、色なんか茶色だけど。想い出の楓の葉。あの学校の楓の木、紅葉すると、とても綺麗なのは知ってるんだ。

「カエデ。良い名前だ」

「え」

「俺のことは、これからそう呼ぶように」

 え、決定なの? それ。

「ちょっと待って。アイドルは嫌だけど、ペットとか?」

「ペット……何を飼ってる?」

「い、犬が居るよ」

 ちょっと顎に手をやって、考えている。王子様っていうよりも、品の良い店員さんみたいな……ってどこの店員。何の店員なの。自分に突っ込みを入れる。

「君のペットの名は?」

「……タロウ」

「そんなのはヤダ」

 ……! わがままだな! 疲れるわ。


「さてと」

 楓の王子様は、紅茶を飲み干したらしく、立ち上がる。

「スマホへ、俺を戻す操作をやってみようか」

「は、はぁ」

 いつの間にか手から落ちていたスマホを拾う。ここから出てきたんだから、ここに帰るのか。帰る……。あたしは横にしたり裏を見たり、カバーを取ってみたりした。電池パック抜いてもいいのかしら。

「電池を抜くなよ、今は。これから帰るんだから」

「……」

 電池、いま抜いちゃいけないのか。抜きたいですとても。

「俺にコレ以上、特に用事が無ければの話だが」

 襟を直している。別になんともなっていないけど。机の上にあるミラーをちょっとのぞいて、ぐっと眉間に皺を寄せ怖い顔になった。

「いえ、べつに……特には……」

 紅茶と一緒にクッキーも持ってきたんだけど、食べないのかしらと思った。


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