インストール・ハニー
「そのうち、俺が必要になってくる。とてもね」

「……」

「俺は、君の為にいるからだ」

 別にいらない。そう思ったけど、口には出さなかった。
 言われた通り「戻す」のコマンドで、楓はスウッと薄くなり消えた。と思ったらスマホから声。

「こういう感じだ。じゃあ、おやすみ」

 画面の中で、手を振っている。思わず、それに向かって手を振ってしまった。

「青葉」

 名前を呼ばれて、ドキッとする。さっきまで直接聞こえていた声は、今は電話みたいな感じ。いや、電話なんだけど。

「あんまりそう驚かないで。大丈夫だから」

 何が大丈夫だ、だよ。驚くななんて無理。まだ、狐につままれたような感じだ。
 今のは夢だったのかな。そう思っている。

 飲み終わったカップ。座ってた椅子。涙を流すあたしを撫でていた感触。その残った感覚を、自分が追っていることにはっとした。


 静まり返った部屋。

 スマホがベッドに置いてある。それを見て、まだあたしが知らない、何かがあるのでは、と思った。
 楓。この手のひらに乗るスマートフォンから出てきた、男の子……。


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