インストール・ハニー
「はよー。モリヤマコンビ」

 この声。宮田くんだ。一海の苗字は杜尾。あたしは山都。モリオとヤマト。モリとヤマでモリヤマ。一緒にされてる。宮田くんは一海より先にあたしと目が合って「うっす、山都」と言ってきた。

「お、おはようっ」

 声がひっくり返りそう。

 あたしの苗字を発音する宮田くん。でも、もう前みたいに「名を呼ばれただけでドキドキする」という感覚ではなくなっていた。ドキドキだなんて可愛い音はしない。ギュウギュウ鳴ってるみたいだ。辛いだけ。
宮田くん。好きだった人。まだ好きだけど。あたしの失恋。
隣には、ショートカットの女子が居る。拷問でしかないよ、こんなの。見たくないし、別にツーショットなんか。ツーショットもショートカットも。

 彼女が、クソむかつく女で不細工だったなら、まだ感情のぶつけどころもあったかもしれない。でも、ショートカットの可愛い女子で……。あたしは自分の長い髪を引っこ抜きたくなった。

 胃がキュウっとなったので、あたしは一海を置いて廊下を突き進んで行った。

「あ、青葉。待って~」

 背中に一海の声を背負って、教室へ入る。ざわめいている。まだ始業の時間じゃないし、みんなそれぞれ友達と朝の時間を過ごしている。

 窓から太陽の明るい光。それと青空。その窓側の席で、前から2番目。そこは宮田くんの席。

 廊下側でもなく窓際でもなく、かといって中央でもない、どっちかというと廊下側の一番後ろ。そこがあたしの席。あたしの席から窓際2番目がよく見えて、外を見るフリをして、宮田くんのことを見ていた。

 いまは、まださっきの彼女と居るんだろうから、空席だけど。その席を見るのも、苦痛なだけだけど。


 席に鞄を置いて、椅子に座った。すると、目の前に女子制服が立ちはだかった。なにこれ前が見えない。


「ねぇ山都さん。さっき男子と学校に来たでしょ、彼氏?」

 めざとい。クラスの女子が聞いてきた。

 一海とばかりつるむので、あたしは他の女子とあんまり喋らない。仲良しも一海だけ。だから、あんまり友達居ないんだけど。なんだっけ。佐山さんって言ったっけ。あまり話さないから名前なんか覚えてないんだけど。

 佐山さんは、デブではないけど体格が良くて、肉感的な女子。なんか、無駄に色っぽいっんだよな。わりと美人だし。おっぱい大きいし。

 目の前に鎮座するポヨンとした物体2つ。あたしは自分のおっぱいに視線を落とし、思わず見比べてしまった。……いいなぁ。

「あーうん、親戚、みたいな」

「みたいな?」

 ポヨンと悩ましく、佐山さんは言った。ああ……あたしも変に濁った言い方するから……。

「あ、イトコなの」

 隣では一海がそれを聞いている。さっきも言ったし。イトコだって。

「へえ、すごいね~」

 ……何がすごいのよ。同じクラスになって、こんなに長く話したのは初めてかもしれない。佐山さんの取り巻きとは話したこともないけど。

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