インストール・ハニー
「今日、お昼一緒に食べようよ」

 あたしに興味があるんじゃないじゃん。楓に興味津々なのバレバレだよ。
 佐山さんは、あの通りなので他のクラスの男子とか先輩とか後輩とか、ちょいちょい噂を聞く。その噂の9割は一海からなんだけど。嘘か本当か分かりませんが。恋多き女だ。

「あーうん……」

 適当に返事をした。なんであなたと一緒に昼を食わねばならぬのだ。教えてよ教えて!

「昼休み、声かけるね」

 うふふ、みたいな感じで自分の席へ戻っていった。あたしは取り巻きはあんまり可愛い子居ないなって思った。失礼極まりないけど。一海のほうがずっとずっと可愛い。

「……なにあれ、女王様かっつーの」

 話しかけてきた佐山さんが去ってから、一海が小声で言ってきた。

「あの彼、青葉のイトコ狙ってるって見え見えだから」

 ハナクソだよねーと言う一海を横目に、お昼休み、どっかに身を隠していよう……そう思った。

「そういえば、昨日、買い物つき合ってってメールしたけど、いいわ、もう」

 目鼻立ちのハッキリした顔があたしをのぞき込む。長い睫毛はキラキラしていた。天然の栗色をした肩までの髪。色白の顔立ちによく似合っている。一海も美少女なんだよねー羨ましいわ!

 美少女だけど口が悪い。美少女がハナクソとか言うな。

「そうなの?」

「だって、さっきあの人、学校終わったら迎えに来るって言ってたでしょ」

「ああ、そういえば」

 よく聞いてるな……。

「買い物は別な日でいいや」

「そっか」

 なんか変な気を利かせてるけど、別に買い物行っても良いんだけどな。あの人いつでも呼び出せるし。

「あたしも帰り、一緒に帰りたいよー」

 叶えてやりたいけど、無理。同じシフトでバイトでも入ってればまた話は別だけど。楓にお迎えなんか頼まないから。子供じゃないし、1人で帰れる。来ても目立つだけだしさ……。

 授業が始まったけど、頭に入ってこない。失恋と、楓のことで、頭が一杯。半分ずつで頭が一杯。

 でも、楓が出てきたことで、全部が失恋じゃないのは感謝すべきなのかも。しれない、けど。

 楓のせいで、気が紛れたのは確か。でも心の真ん中にブスリと穴を空けたのは、宮田くん。それはやっぱり忘れようとしても忘れられないことで。

 あたしは、ともすれば窓際へ視線を送りそうになるのを止め、ノートを取った。何度もシャープペンの芯が折れる。無意識に窓際2番目の席を見るクセがついていることに、イラっとした。


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