インストール・ハニー
別なことに頭を支配されたまま、もう昼休みになってしまった。
今朝、少し涼しいなって思ってたけど、さすが猛暑。照りつける太陽は地上のものを全て干からびさせようとしているみたいだ。熱中症対策ということで、数年前から教室に冷房が設置されたけど、先生の指導が無いと入れられない。指導基準がなんなのか分からないけど、窓を開けても暑いし。教室に扇風機が付いているんだよね一応。それでも暑いなぁ。
梅雨明けしてから、一気に暑くなった。天気が良いのは素敵なことだけど。
あたしは、チャイムと同時に教室を出て、屋上へ通じる階段へ来た。ごめんね、一海。
「ごめん。あたし今日1人で食べるね」
「ああ、リョーカイ。あたしも校庭行ってくるー」
さっき、そう会話をして、ダッシュでここへ来た。あいつらに呼び止められる前に。
お昼を誰かと一緒に食べる時は、いつも一海とだ。でも、たまに1人でここでお弁当を食べる。この階段を登って、鉄のドアを開けると屋上。静かだし、誰にも邪魔されないし。一海は1人にされるのを特に嫌がらない。本でも読みながら、あたしと同じように1人で、校庭のベンチで食べているだろう。
校庭のベンチでは、けっこう1人弁当してる生徒が居る。屋上へのあのドアは、施錠されているから出られない。出られないから、ここには誰も来ない。そして暑い。ちょっと後悔した。
「はぁ」
またため息。今日何回目だろうか。景色が、まるで彩りを無くしたみたいだ。ちょっとしたことで、あたしが見る風景は、こうも変わってしまうんだな。
「しまった」
ポケットのスマホに手をやる。
ヤバい。スマホを取り出すと同時に、大変なことを思い出す。楓をスマホに戻すのを忘れていた。戻したつもりとかじゃなくて、戻すってこと自体、頭から抜けていた。大変だ!
今日は少し気温が低いとはいえ、現時点で30度を超えている。外にずっと居たよねたぶん。
「怒られるかなぁ……」
アプリを立ち上げ、言われた通りに、戻すコマンドを実行する。画面が点滅し、部屋の映像の中に、今朝見た楓が映し出される。
戻ってきたんだねこれで。ああ良かった。……良かった? ちょっと違うか。
「ご、ごめんねっ戻すの忘れちゃって」
「青葉……ひどいぞ」
額に手を当てている。どうした、頭痛でもするのかな。水分補給できなかったとか? 怒った顔をして、あたしを睨んでいる。あーやっぱり怒ってるな。
「ごめんね、どうしてたの今まで。暑かったでしょ」
午前中、知らない土地の、しかも外で。出しっぱなしは怒るよね。
「俺を出せ」
どうやってあたしが見えているんだろうと素朴な疑問が浮かんだけど、画面の中の楓はあたしを指さしている。
「う、うん」
……怒ってますね。