インストール・ハニー
「あ、ほら」

 こぶしを手のひらにポンと、わざとらしく当てて、あたしははぐらかそうとした。はぐらかしたかった。そんなにじっと見つめられて、平気でいられるわけがない。むしろ、もうこっち向かなくて良いよ。

「そ、そろそろスマホ戻ったら?」

 落としたんだっけ? 足下にお弁当がある。そうだった。まだだった。

「あたし、お弁当食べなくちゃ。午後も授業あるし」

 お腹、空いてないけど。楓があんなことするから。あたしは階段に腰を下ろした。

「青葉がお弁当食べ終わるまで、居ていいか?」

 返事をする前に、楓は階段に腰掛ける。良いとも悪いとも言わず、あたしはその様子を見ていた。

 昼休みは、もうすぐ終わる。あたし達が居る階段は静かだ。

 きっと教室前の廊下は生徒のおしゃべりなんかで騒がしいはず。ここまで聞こえてこないけど。

 一海は、まだ校庭に居るのかな。ここに楓が居るって知ったら驚くだろうな。


「美味しい?」

 膝の上に頬杖をついて、あたしに聞く。彼の名前は、楓くん。名前はあたしが付けました。

 この人は、経緯はよく分からないけどスマホにインストールされ、あろうことか画面から? アプリから? なんかこれもよく分からない仕組みだけど、出てきました。超・絶・非現実的にあたしの側に居る。あたしの為に、失恋の傷を癒す為に、居るらしい。あたしの、王子様なんだって。

 色々、考えると頭が痛くなるから、考えないようにしたいな……。だってよく分からないし! 現代科学は進んでいるんだね……そういうことにしておこう。

 俺が、必要だろう?

 歯の浮きそうなというか、歯に激痛が走りそうなセリフをすらすらと言う。


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