インストール・ハニー
 でも、不思議。教室に居た時と違って、心は穏やかだ。楓のおかげなんだろうか。

「青葉。帰り、一緒に帰るだろう?」

 あたしがモグモグと食べるのを、じーっと見つめている。そんなに見ないで欲しいんだけど。味が分からない。

「ううん、大丈夫。楓、疲れたでしょ? 暑いのに出しっぱなしだったし。これ食べたら、戻してあげる」

「そうか? いいけど」

 ちょっといじけたような表情をした。寂しいのかな、なんて。心が、なんだか震えるような、不思議な感覚。

 頬杖で、こっちを見つめている。「なに?」と聞いた。

「いま、初めて名前で呼んでくれたな」

 すっごい嬉しそうな笑顔だった。眩しいなと思ったのは、階段に差し込む光のせいだけではなかった、と思う。


 あたしの、王子様。

 残り一個のウインナーを楓の口に放り込んでやって、あとは背を向けてお弁当箱を片付けた。

「ウインナーだぁ」

 楓のこと、少し知っておこう。好きな食べ物とか、趣味とか。そういうのきっとあるだろう。アプリのマニュアルを探してみよう。そう思った。




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