インストール・ハニー
「青葉ぁ、昼休みまたあそこに居た? 電話したんだけど出ないし」
「ごめん。分かんなかった」
午後の授業が終わると、一海があたしのところに来た。楓とゴタゴタしていたし、着信が分からなかった。そう、ゴタゴタしていた。思い出して、喉の奥が熱い。
「うん、いつもの所に……なんかあったの?」
一海に腕を引っ張られて、廊下に出た。
今日はもうこれで学校は終わりだった。明日はお休み。そわそわしたような感じが教室に漂う。その気持ちはあたしも同じだった。そして、来週からは夏休みに突入だ。
「佐山がさ、青葉ちゃんどこ行ったのぉ~とかって来てさ。あたし食欲無くなった」
「まじか」
「そう。だからあたし親友を守るために心で叫んだよ。バルスって」
あいつら崩れたんだね。一海ちゃん頼もしい。
「青葉は生理痛で具合悪いから今日はそっとしておいた方が良いよって言っておいたから。今日はたぶん大人しく帰るよ、あいつら」
「なんて気の利く子なの! 一海、良いお嫁さんになるよ!」
「そんなことは知ってる」
大好きだよ、一海。 楓より好き! なんて頭が良く気の利く子なんだろう。友達として誇りに思う。大げさかしら。だって本当にそう思うもの。
屋上階段から戻って、午後の授業が始まる寸前に教室に駆け込み、席についた。だから一海も佐山さん達もあたしに声をかけられなかったのだ。
佐山さん達につかまりたく無いし。
あの人達の目的は楓だということは分かっている。朝の校門で目立ち過ぎたのだ。面倒なことはゴメンだ。
あと、もう1つ。宮田くんと彼女のツーショットをなるべく視界に入れないようにしたい。見たくないし。一海との買い物の約束も無くなったことだし、今日はダッシュで帰ろう。
「ごめん、あたしちょっと急いでるから、もう帰るね」
「今朝の彼? 一緒に帰るんでしょ」
一海は、まわりに聞こえないように耳打ちしてきた。佐山さん達、今日は近寄って来ないだろうけど、側に居るかもしれないから。壁に耳あり、障子に佐山。想像すると怖い。
「だからイトコだって」
「分かってるって」
「なにが?」
ウフフ、と一海が笑ってる。含み笑い。