インストール・ハニー
部活へ向かう生徒、帰る生徒。校内は、夕方の浮き足だった雰囲気に包まれていた。夕焼けが染める空は、夏の空。
同じクラスって、こういう時に辛いな。違うクラスが良かった。ていうか、同じクラスの人を好きにならなきゃ良かった。
夕焼けは、寂しいオレンジ。それは、あたしの心が寂しかったから、そう見えたのかもしれない。帰り道は暑くて、暑いけど心は冷えていた。汗が鬱陶しい。
「ただいま」
……なんて言っても、誰も居ないからひとりなんだけれど。お母さん今日パートだったっけ。玄関が暑いな……。
「タロウ、ミルク飲む?」
シーズーのタロウが、あたしのまわりをクルクル回っている。犬用に、リビングのエアコンが弱で作動していた。お母さんがパートの時はいつもこう。扇風機でも締め切った室内ではタロウが熱中症にかかってしまう。
あたしは、タロウに犬用ミルクをやり、飲むのをボーっと見ていた。ちゃぷちゃぷという音。誰も居ない家。ああ制服、脱がなくちゃ……。
「……」
いま、誰も居ないから良いかな……。スマホを取り出して、画面をタップしアプリを起動させる。楓に会いたかったから。……なんだか、寂しいからって楓を呼び出してるみたい。
楓が出現する時の光を、あたしは求めているなって、そう思いながら見ていた。温かい光だから。
◆
「……青葉。元気ないな」
目の前に、楓が居て、あたしにそう言った。あたしの部屋。締め切っていたから、当たり前だけど暑かった。窓を開けて扇風機を回している。それでも暑いけど。
元気がないって言われて、そんなことないよ、そう言おうとした。でも、暗い気持ちなのは本当だ。
「学校でなんかあったのか?」
またあたしの勉強机に座ってる。そこに居られたら、あたし宿題とかできないけど。(いまは良いけどさ、居ても。居ても出来るけど。むしろ床でもできるけど)
「なんで分かるの?」
「一番近くに居るから。制服のポケットの中、鞄の中。だから分かる」
あたしをじっと見つめ、静かに言う。心がほぐれるような、柔らかくなっていくような不思議な感じだ。