インストール・ハニー
「辛かったね……青葉」

 心の傷を、見られたくなくて話さない。
 一海も親友だけど、話さなかった。宮田くんのことは、一海も知らない。あたしが失恋したことも、知らない。弱いところを見られたくなかった。失恋したけど、いつもと変わらぬ日常を過ごして、平気なフリをしていた。

「……うん」

 涙はなんで出るんだろう。心の傷が泣いてるの。楓の前で、泣くのは2度目。優しいから、傷がますます痛いよ……。
 出ないと思っていた涙は、実は入口まで来ていて、噴き出るのを待っていた。楓の声が、涙の蓋を開けた。いま、それが噴出した。泣いてしまった。

 平気なフリをして、日常を送っていたあたしの目の前に現れた、非日常の楓。

「だから、そうやって爆発しそうになるまで我慢しなくていい」

 優しい目と声で、あたしにそう言うの。気を張って、我慢して、立っていなくちゃって思って。弱いあたしに。

「うん」

「いつでも、呼び出せばいいし」

 楓は、強い人なのかな。

「……うん」

 そういえば、あたしは楓にキス、されたんだっけ。だったら、こうして楓に抱きしめられることも、それの延長か。
 慰めの、延長。楓は、あたしを慰めるのが役目。
 でも、このまま、できることなら今このまま……。楓のシャツを掴んだ。

「今日、駄菓子屋のおばあさんと、お喋りしてたんだ。会話の練習も兼ねて」

「……なにそれ」


 ロマンチックであろうなこの状況で、なんで駄菓子屋のおばあさんの話が出てくるの。

「だって青葉、なかなか戻さないから。ウロウロしてたら、どうしたのって声かけられて、冷たい麦茶をごちそうになって」

 駄菓子屋って、駅前のかな……。麦茶飲んだんだ。

「なに話してたの?」

「おばあさんは夏休みに孫と遊ぶんだって。あと色々。俺は青葉の話をしたよ」

「あたしの?」

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