インストール・ハニー
「帰りにね、宮田くんと喋った」

「青葉の片想いの人だな」

「もう終わったんだけどね」

 会話を思い出す。胸がチクリとした。勝手に苦笑いが出てくる。

「あたしのこと、近付きがたい感じだけど、喋ってみるとそんなことないって」

「よく分かってるんだな、そのミヤタくんは」

「男子で、あたしをイイって言ってるヤツ居るよとか」

 あんまり興味なさそうにしている楓は、カップをカチャンと置く。そして、あたしを真っ直ぐ見た。その視線に固まってしまう。

「あんまり、あたしなんか、とか思っちゃダメだよ。青葉」

 言いながら、楓は窓の外に目をやった。

「青葉は、青葉なんだから」

 まだ、あたしは立ち上がれていない。

 付き合ってて別れたとか、何か宮田くんと関係があったわけではない、ただの片想い。なにも無かった。あたしに勇気が無かったから。どうやら傷は思いのほか深いようだ。……って。他人事かよ。

 今思ったけど、あたしの中で楓の存在はだいぶ大きくなったみたい。
 知らない人に懐かないタロウ。なのに楓の足元に居る。珍しいことだ。

「タロウ、楓のこと好きみたい」

「俺も、犬を飼ってるからかな?」

「そうなんだ、なんの種類?」

「ドーベルマン」

 ええ……? 怖えぇ。

「な、名前は?」

「ナッツ。なかなか賢いんだ」

「……ナッツ」

「俺が付けたんだ」

 ドーベルマンなのに、ナッツ。なんで、ナッツ。そのネーミングセンスは……。

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